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RCサクセション 「コブラの悩み」 東の芝にも陽はまた昇るか?
(RCサクセション「コブラの悩み」ご紹介)

コメントを書いていたら、非常に長くなりそうだったので、
こちらに加筆したものを転載することに。

まずは当時の事実関係を少々。

RCサクセションは、1988年6月25日にニュー・シングル「ラヴ・ミー・テンダー/サマー・タイム・ブルース」と、
同年8月6日に全編カヴァーで構成されたニュー・アルバム『COVERS』を、東芝EMIから発売予定であった。
ところが突如、1988年6月22日の新聞商況欄に
「上記の作品は素晴らし過ぎて発売出来ません」と東芝EMIの小さな広告が掲載される。
初めにこの広告を見た時に、冗談めかした宣伝だと思ってしまった方は自分も含め多かったであろうと思う。
それが本当の発売禁止であったから、さあ大変。
翌23日の朝日新聞他、数紙に大きく採り上げられ、
その後は各メディアにもこぞって採り上げられた。
「ラヴ・ミー・テンダー」と「サマー・タイム・ブルース」の歌詞の内容が反原発のため、
親会社が原発製造に携わっている東芝EMIが、発売禁止を決定したとの事であった。

予定より少し遅れ、シングル「ラヴ・ミー・テンダー/サマー・タイム・ブルース」とアルバム『COVERS』は、
かつてRCが在籍したKittyから8月15日に無事リリースされ、
オリコン初登場1位の大ヒット・アルバムとなる。

そこで本ライヴ・アルバム『コブラの悩み』。
アルバム発売直前の8月13、14日に日比谷野外音楽堂で行われたライヴの実況録音盤。
ライヴには金子マリ、梅津和時、片山広明、三宅伸治といったお馴染み且つ最強のメンバーも参加。

『COVERS』には未収録だったビートルズの「ヘルプ」のカヴァー、
唱歌「からすの赤ちゃん」、
新曲の「心配させないで・・・」、
30秒足らずで意図的にばっさり切ってある
「君はLOME ME TENDERを聴いたか?」(スペシャル・ショート・ヴァージョン)等、
要注目曲を収録しているが、
特に興味深い内容の歌を以下で採り上げてみよう。

本作、及びライヴでの幕開けを飾ったのが、
『COVERS』には未収録だった新作カヴァー、ボブ・ディランの「I Shall Be Released」。
とにかく歌詞が最高で、
「俺を黙らせようとしたが、かえって宣伝になってしまったとさ」
というフレーズは怒りをユーモアに転化して表現できる清志郎らしい極上のフレーズ。
もともと「ラヴ・ミー・テンダー」にしても、「サマー・タイム・ブルース」にしても、
ユーモアたっぷりの反原発ソングであるのだから、
ここらへんのセンスはお手のものだろう。
更に「日はまた昇るだろう 東の芝にも」と
発売中止を決定した東芝を揶揄したフレーズがあるが、
本作はあろうことか東芝からのリリース。
という訳だからなのか、わざとかどうかはわからないが、
歌詞カードには「日はまた昇るだろう 東の島にも」となっているところが笑える。

また本作では古い歌も収録されており、
ハード・フォーク期、10代の頃の青臭い歌「言論の自由」が、
ここでは非常に説得力あり鬼気迫る演奏。
ちなみに作曲・肝沢幅一は清志郎の別名。
清志郎の父親がいつも沢田研二の事を見ると、キモサワフクイチと間違えて呼ぶ事が可笑しく、
作曲家クレジットにそう名乗るようになったとのこと。

RC極貧時代に書かれた『PLEASE』収録の「あきれて物も言えない」は、
悪友、泉谷しげるが清志郎にハッパをかける意味もあって、
あいつはもう駄目だと触れ回った事に対して、清志郎が反発して作った歌。
元々「どっかのヤマ師が」は「びっこのヤマ師が」だったというのだから、
かなり腹を立てて書いたのであろう。
本作ではそんな裏話とは無縁の普遍性で迫ってくる。

また本作のハイライトとも言える、
この度の騒動で出来た新曲「軽薄なジャーナリスト」。
この日のライヴは、各種メディアも大勢取材に来ていたであろう。
そこで清志郎は、反原発のシンボルとして持ち上げようとするジャーナリズムをもばっさりと斬り捨てる。
「軽薄なジャーナリズムはゴシップに飛び付き 適当に騒いでトンズラ決め込む」
「軽薄なジャーナリズムにのるくらいなら 軽薄なヒロイズムに踊らされるくらいなら
そんな目にあうくらいならあの発電所のなかで眠りたい」
なんて、フレーズのところでは思わず鳥肌が立ってしまう。
「I Shall Be Released」で、発売中止したレコード会社を揶揄するという、
ここまではそこそこのアーティストなら可能(今はそれすら不可能な腰抜けばかりか?)。
その後に返す刀で、自分を安易に持ち上げようとするメディアも斬り捨てるところが何とも痛快。
あの騒動の渦中でこれだけの作品を作り上げてしまう、清志郎のタフさ、冷静さは、
そんじょそこいらのろくでもないロック・ミュージシャンとは、雲泥の差である事を証明する一曲。

ところで未だにコピーコントロールCD(CCCD)に拘っている東芝。
昨年はRCサクセションの「ラプソディ」が完全盤の「ラプソディ ネイキッド」として
別の会社からであるがリリースされたのであるから、
この日のライヴも『東の芝にも日はまた昇る』とでも改題して、
完全盤をCCCDではなく、通常のCD仕様でリリースするような事があれば、
まさしく東芝の復権になると思われるが、
責任を取りたがらない上に、何でも金勘定の今の世の中、
それほど金になるとも思われない骨のある仕事を、
やり遂げるほどの人材はいないんでしょうね、東の芝には。

(2006. 4.07)

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